「人を生かす経営」と「リスキリング」で仕事を通じて幸せになれる企業を目指そう!

1.最低賃金上昇と生産性向上

 8月2日、中央最低賃金審議会が2022年度最低賃金引き上げ額を厚労相に答申しました。全国平均31円。北海道は30円。物価高が続いていることを考慮し、過去最大の引き上げ額、伸び率となりました。日本の最低賃金は欧米諸国よりも低い水準に留まっています。したがって、答申は当然ともやむを得ないとも言えるわけですが、多くの中小企業にとっては相当厳しいものとなるでしょう。
 コロナ禍、ウクライナ戦争、円安等の理由により、企業物価の高騰が続いています。これに対し、原価上昇分を販売価格に適正に上乗せできる企業は限られています。業務改善を通じてコスト増を吸収するにも限界があります。付加価値が減少する中、値上げを躊躇したり、発注先の価格要求を飲まざるを得ない企業が多いのではないでしょうか。今後、地域企業の業績悪化や景気の後退が懸念されます。
 最低賃金が欧米諸国と比べて低い金額に甘んじているのは、日本企業、とりわけ中小企業の労働生産性が低いからに他なりません。しかし、社員一人ひとりの能力が劣っているというわけでは決してありません。能力の高低というよりも、仕事の進め方、人材育成の仕組み、業界の古い慣習、デジタル化の遅れ……といったところに、多くの地域企業の課題があると考えるべきでしょう。急速に経営環境が変化しています。業種業態にもよりますが、従来と同じやり方では付加価値はまずます低下していくことになります。新たな付加価値を創造していかねばなりません。

2.リスキリング

 最近よく聞くようになった言葉のひとつに、「リスキリング」があると思います。リスキリングとは「学び直し」のこと。日本経済新聞に「シンガポール、全国民リスキリング 人口より生産性優先」(7月22日)という記事が載っていました。シンガポールは、日本同様、少子化による生産年齢人口減少という問題に直面しています。以前は外国人労働者の流入でカバーしていましたが、国民の反発もあり、外国人にばかり頼ることはできません。
 そこで、シンガポールでは2014年から「スキルズフューチャー運動」という政策を採っているそうです。25歳以上の男女に学習費用を支援すると同時に、学習プログラムを提供するというもの。対象コースはデジタル技術から経営管理まで24,000を超えるというから驚きです。この支援制度を受けた人は約66万人。生産年齢人口の1/4に相当する人数。国を挙げての生産性向上戦略。労働生産性アジアナンバーワンのシンガポールから我々が学ぶ点は多いというべきではないでしょうか。
 企業の付加価値創造や業績はその会社の人材によって決まります。人材育成が重要であることは言うまでもないこと。人生100年時代に向かっていますから、今後は中高年に向けてのリスキリングが求められるようになっていくでしょう。多くの地域企業は自前による人材育成プログラムを持ち合わせていません。中小企業家同友会のセミナー、勉強会を有効に活用したいものです。

3.第1回常任理事会より

 8月5日(金)、北海道中小企業家同友会第1回常任理事会が開催されました。会議後半の勉強会は、7月11日に行われた「人を生かす経営研究セミナー」を題材とする敬禮匡共同求人委員長による問題提起と討論。「生きること」「働くこと」「学ぶこと」、そして「幸せ」について大いに考えさせられる内容でした。
 物価高騰、最低賃金アップ、労働生産性向上等、コロナ禍により地域経済が痛んでしまったため、経営者の悩みと関心は、もっぱら「売上と利益」に向かってしまいがちです。一方、社員さんの最大の関心事は「収入と物価」でしょう。しかし、何のために働いているのか、企業を経営しているのかを突き詰めて考えていくと、「幸せになるため」というひとつ目的に集約されるはずです。
 同友会の基本思想である「人を生かす経営」や「共育」は、単純に言えば、仕事を通じて幸せになるために必要なものと言えるのではないでしょうか。
 しかしながら、家庭教育、学校教育の中で「幸せ」について学ぶ機会はさほど多いとは言えないのが現実です。家庭・学校環境による差も大きいでしょう。日本では中小企業に勤める人が約70%を占めています。中小企業家が人を生かす経営を実践し、共育に熱心にならなければ、仕事を通じて幸せを感じる人は少なくなってしまうのではないか。そんな危機感を覚えます。
 コロナ禍、国際紛争、極端な異常気象等が続き、多くの人が不安を抱いたり、精神的に不安定になっているのではないかと思います。不安の根底にあるのは、外的要因よりも「知らない」「できない」「自信がない」といったものではないでしょうか。企業経営者はこれまで以上に熱心に人材育成に取り組み、学び合う社風を築き、仕事を通じて幸せになれるような企業づくりを行っていくことが求められます。
 危機的状況の中で目先の問題に集中せねばならないこともありますが、自社の中長期的な将来を考えると「人を生かす経営」と「リスキリング」が重要であることは間違いありません。単に知識・技術を習得するリスキリングではなく、人間性や人格形成を促すようなリスキリング(同友会型の共育)が求められる時代だと思います。皆さんはどのようにお考えでしょうか?

2022年8月8日

「人を生かす経営」と「リスキリング」で仕事を通じて幸せになれる企業を目指そう!