大谷短大生がゆく 「社長! 教えてください」

  • 第8回 株式会社ザ・本屋さん(2017年1月26日 取材)

36歳 青年社長に聞いたザ・本屋さんの未来

書店の未来予想図

今回取材に訪れたのは株式会社ザ・本屋さん様のWOW店(以下、ザ・本屋さんという)。普段客として利用している店の入口ではなく、裏側の通用口から入れていただき、客としては見られないスペースを垣間見ることができた。潜入取材というわけではないが、入口1つでその雰囲気にいやが応でも緊張感が増す。案内していただいた部屋で約半年前に社長に就任した高橋智信さんにお会いし、あいさつも早々にインタビューを開始した。
高橋社長は1980年幕別町生まれ。帯広農業高等学校、道都大学短期大学部卒業後、札幌市内の小売業勤務を経て2003年にザ・本屋さんに入社。ブックカフェを作るなどザ・本屋さんの発展のために尽力している。
書店という職業は本を売ることはもちろん、お客様の求めている本の注文、問い合わせの受け答え、売上・金額の管理、本の並べ替え、店舗のディスプレイ、POP作成などさまざまな仕事がある。加えてザ・本屋さんでは本の宅配も行っているが、それだけではなく文具・雑貨にも力を入れており、WOW店では店舗の約3分の1が文具・雑貨で占められていた。店舗内を拝見したのだが、リュックまでもが販売されていて驚いた。しかし、高橋社長はWOW店の広さではまだまだ満足できる品揃えができないと言う。もっともっと本や雑貨、カフェスペースなどを増やしたり、東京で流行っているものなど若い女の子にうけるものをこれから入れていかなければいけないというお話を聞き、高橋社長の熱い思いを感じた。
高橋社長が社長に就任してからWOW店内に設置したブックカフェも、これからザ・本屋さんが着実に発展していくための対策の1つである。大型店の出店、新しい業態の展開、通販での書籍販売、ネット小説や雑誌記事の配信INコンテンツ、本離れ、書籍流通の特異性など厳しい経営環境のもとでいかに地域の書店として生き残り、発展していくか。そのことを考えたとき、ブックカフェを行うにしても地域の企業と連携し、地域独特の特徴のある書店としてザ・本屋さんを残していきたいと話された。具体的な内容についてはまだ公表できないが、地元の企業同士で連携することで書店に付加価値をつけることで、地元の人からも好かれる“わがまちの本屋さん”としてのポジションを確保し、長く続けていけるとのお考えをお教えいただいた。地元企業の連携、そこに同友会の理念を見ることができた。

書店で働くということ

就職活動を控えた私たちとしてはどうしても気になる企業の求める人材の要件、仕事の責任、経営者の考えていることなどについて伺った。以下、その抄録をQ&A形式で整理し、それぞれの項目に関して私たちなりに理解したことを述べていく。

Q ザ・本屋さんが求める人材は?

A 店長候補を育てていきたいので時間や自分で言ったことを守れる人。わかっているつもりはダメ。できないことは素直にできないと言って相談してほしい。何を考えているか分かるので、うるさいぐらいの明るい(よくしゃべる)人がいい。英語ができるなど秀でている部分はなくてもいいから、きちんと日本語を理解してコミュニケーションが取れる人を求めている。

一瞬、拍子抜けするくらい当たり前のことを言われているように思った。しかし、これらのことが当たり前にできるのは難しいことかもしれない。特にコミュニケーションの難しさは深いと思う。家族や友だちとではなく、考え方や立場の違いなどさまざまな場面でのコミュニケーションを考えると間違いなく私たちの課題の1つだ。

Q お店の改善点は?

A 売れなかった本は返本できるため、返本できるから売れなくてもいいと思ってしまう社員の意識を変えていく必要がある。自分が仕入れたものは「売り切る」という当たり前の意識。書店は返品が当たり前だったのでこの辺の意識改革が必要。 本部から命令してしまうと、言われたことだけをやればいいと思ってしまい、成長しない。一人ひとり自分が店の経営者と思って危機感を持って仕事に臨んでもらう環境を作りたい。

この点が学生と社会人の一番の違いかもしれない。私たち学生はどうしても先生の言われたことをきちんと行うというところで満足しがちである。そこを超えてこそ社会人へのステップアップがあるのだと思った。

Q 店長に望むことは?

A お店の改善点でもあるが、特に店長には自分が店の経営者という責任感と危機感を持って仕事に臨んで欲しい。また、店長は数値管理を含むマネジメントができれば年齢を問わずやっていてもいいが、立ち仕事なうえ夜10時半までお店に残っていたりするので、ある程度の年齢になったら事務や他部門を作り、そこに異動するというようなシステムをつくっていくことが会社としての今後の課題。  昔は1か月ごとに店長が店舗異動していたこともあるが、今はあまり異動せずに、ここは自分の店なのだという意識と責任を持ってもらっている状況。  ずっと店にいるとその店がきれいか汚いか分からなくなるので店舗回りもしてはいるが、店長と面談したりして、店長に任せられる体制を整えている。

店長の責任、新入社員の責任、社長の責任。それぞれに違うのかもしれないが、私たちも仕事に就いたら、その責任を自覚し、しっかりと果たせるようにしていきたいと思った。

Q 経営者の大変なことは?

A 経営者はいい時はすごくいいけど大変な時はすごく大変。

今年2月に札幌の「北32条店」を閉店した際に小さなお客様からいただいた手紙。「こういう手紙をいただくと本屋の社会的使命を感じます」と高橋社長はお話しくださいました。

会社がダメになったら家族にもまわりのいろんな人に迷惑をかけるので責任が重い。 社長が軽く言ったことでも会社の方針になってしまう。でも従業員のやる気がなければ成功しない。店を閉めるとお客さんにもっと続けてほしかったと言われる。それを店長や従業員に伝え、自分たちは重要な仕事をしているという意識を持ってもらえばまた変わると思う。 今は「ザ・本屋さん」と本屋を名乗っていますが、お客様を満足させられるような商品在庫の豊富な基幹店舗といえる店がない状況。今後は統合・出店を模索し本をベースとした基幹店舗を作るのが目標。また十勝管内の市場性を考えて帯広以外でも出店余地のある町には店を出していきたい。町の本屋がないのは寂しいので。 これから出店や統廃合をしていきますが従業員は必ず協力してくれる。僕の仕事はしっかり想いを描くことだと思っている。

やはり経営者は大変だと思った。その責任の重さとプレッシャーを考えると、社長のやりがいやモチベーションについてまた別の機会にあらためて伺ってみたいと感じた。

Q これからのザ・本屋さんの目指す姿は?

A ほかの本屋と同じような本屋を作るつもりはない。
お客さんがいやすく、そこに行くことがステータスだという空間を作っていきたい。
おしゃれすぎるのはこの地域には合わない。だが、みんなおしゃれなところに行きたいと思う潜在的欲求はあると思うからそういうところも作っていきたい。

すでに触れたが、書店の未来図をどう描くのか、本屋を「本を売る店」と定義してはいけないということが重要なポイントだと思った。企業経営論で学んだ会社(自社)の定義の問題に出合えた。自社の定義とは、わが社は「こういう会社である」という自社の存在やミッション(使命)、本質的性格をことばで明確化したものであり、この定義の仕方が事業衰退の原因となると学んだ。たとえば、鉄道会社が自社の事業を輸送事業ではなく、鉄道会社であると考えたこと、また、かつて栄華を極めてハリウッドの映画会社が自社の事業をエンターテイメント産業と捉えず、映画製作産業としたことなどが、自社の定義を間違えたことによる衰退事例としてあげられている。

ザ・本屋さんでの取材を終えて

高橋社長にお話を伺って、青年社長である高橋社長のザ・本屋さんに対する情熱や愛情を感じることができた。新年会など年に何回か従業員が集まる機会をつくり、従業員から愚痴を含めいろいろな話を聞くと伺って、従業員が愚痴を言えるほどの信頼関係を築いているのだと感じた。また、今回お話を伺った中で、これからこうしたい、こうしなければならないなどこれからの課題をたくさんお聞きして、会社のことを真剣に考えている方なのだと感じた。
これからザ・本屋さんが地域とともにどのように発展していくのか、とても楽しみだ。お忙しい中、お時間をとっていただきありがとうございました。(岸塚 真維 瀬尾 綾 福原 聖良)

注)タイトルの高橋智信社長の年齢は、取材時のものである。