大谷短大生がゆく 「社長! 教えてください」

  • 第10回 北海道中小企業家同友会とかち支部(2017年2月24日 取材)

中小企業家同友会~21世紀を生きる企業づくり~

同友会とは?

今回私たちが取材に訪れたのは北海道中小企業家同友会とかち支部(以下、同友会ないし同友会とかち支部という)。事務局長の岩本聖史様にお話を伺った。同友会とかち支部は1975年設立され、2016年2月に創立40周年記念祝賀会を開催した。現在十勝管内約900社の経営者が入会し、十勝の企業と地域社会の発展のために日々活動している団体だ。組織率は17.4%(2017年1月末現在)と全道一である。
岩本事務局長のご説明といただいた資料をもとに同友会の目的等を以下に記す。
まず、どのような組織かと言えば、「21世紀に生きる企業・経営者をめざして、経営者自らの資質を高め、本当にあてになる人材を育てることを通じて自らの力で活路を開いていこうとする中小企業家の団体」である。また、21世紀を生きる企業像として「①自社の存在意義を改めて問い直すと共に、社会的使命感に燃えて事業活動を行い、国民と地域社会からの信頼と期待に高い水準で応えられる企業、②社員創意や自主性が充分に発揮できる社風と理念が確立され、労使が共に育ち合い、高まり合いの意欲に燃え、活力に満ちた豊かな人間集団としての企業」となることを課題として掲げている。そして、こうした課題あるいは目的を共有した経営者同士が「知り合い、学び合い、援け合い」の活動をすすめているのが中小企業家同友会だとしている。
事業活動を通じて地域貢献をしようとする人(経営者・従業員)が集まり、社内外の志を同じくする仲間として、共に成長し、目標実現に向けて取り組んでいく団体、ということになるだろうか。
インタビューの終盤、岩本事務局長から「日本における中小企業の割合はどのくらいか知っていますか?」という質問を受けた。7割、8割、…、いろいろな数値を答えたが、岩本事務局長の口から出た答えはなんと99.7%であった。北海道は99.8%である。ほぼ100%。日本の企業はすべて中小企業であるといっても間違いではない。ということはほぼすべての企業が同友会へ入会できることになる。そこで入会資格をお聞きしたところ、いくつかの入会できない業種等(銀行、保険会社などの直接的利害関係にある企業、宗教法人、政治団体)以外は、たとえ大企業であっても事業所・営業所単位での入会や中小企業から大企業に成長した企業の継続入会は認められているとのことであった。また、社長だけに入会資格があるかというと、そうではなく、取締役クラスの職位であれば入会できるし、会員は社長だが、会合等への出席者はだれそれということも可能である。最後には冗談口調で「入会金と年会費が払えて、勉強したいという人であればだれでも」と締めくくられた。真面目な話の中でも笑いを取る話術、これも社会人として大切なことだと勉強になった。
ちなみに、中小企業で働いている労働者数の割合は69%であり、中小企業の定義は業種ごとに資本金、常時使用する従業員の数などいくつかの要件によって定められている。

多様な活動内容

上述した目標を持つ同友会は三つの目的として「①よい会社をつくりましょう、②よい経営者になりましょう、③よい経営環境をつくりましょう」と、「自主・民主・連帯の精神」、そして「国民や地域と共に歩む中小企業を目指す」いう三つの理念を掲げ、経営者のための勉強会、社員教育活動、共同求人活動などを行っている。また、地サイダーの開発やワイナリー開設へ向けた取り組み、インターンシップの実施、その他にも収穫感謝祭などイベント運営など活動領域は幅広い。
経営者の組織であるから経営者のための勉強会は当然として、頂いた資料を拝見すると実に多様な取り組みを行っていることがわかる。経営者の勉強会については次項で触れるとして、ここでは気になったことをいくつかお聞きしたので、それをまとめる。
なぜ、経営者の団体がUIJターン事業に取り組んでいるのかお聞きしたところ、上述の社員教育活動、共同求人活動の一環であることがわかった。人口減少社会にあって企業としてはよい人材を取りたい、また、地域も人口減に歯止めをかけたい。そして、たとえば首都圏にいる北海道、十勝で仕事をしたい、暮らしたいという人にUIJターンの機会を提供することで企業、地域、人の抱える問題の解決、希望の実現ができる。だから、取り組んでいるのだとわかった。
また、共同求人活動に関連して“合同企業説明会のはじめて”について教えていただいた。私たち学生にとってなくてはならない就職活動である合同企業説明会。この説明会をはじめて開催したのが同友会、しかも北海道である。大企業に比べて求人力に劣る中小企業がその理念どおり力を合わせて、よい人材に入社して欲しいという思いと知恵が形になったと言える。一度に多くの企業に出会える機会を作ってくださったことにただただ感謝である。
地サイダーの開発やワイナリーの開設に向けた取り組みなどはよい経営環境を作ろうという目的の具体的取り組みであり、同時に、社員教育活動でもある。地サイダーの開発には新しい商品の開発という経済的な意味合いもあるが、その開発プロセスでの様々な取り組みは人材育成につながる。また、ワイナリーについても同様の効果が期待される。いずれも十勝の「どこか」ではなく、十勝管内に多くのブランドやワイナリーを多数誕生させ、相乗効果のもと地域全体の活性化に連帯して取り組むという方法をとっている。連帯の根底には短期的な損得を抜きにした仲間としての信頼があるという言葉が胸に響いた。
とかち地サイダー研究会の活動を同友会の理念の1つである自主・民主・連帯の精神に即して言えば、地サイダーの取組み理念に賛同する人が自主的に参加し、そこでの協議や事業の進め方は民主的であり、自分たちだけのものとして囲い込まず、多くの賛同者が連帯して複数の地サイダーブランドをつくり、あわせて地域を盛り上げていこうということと理解した。地サイダーには興味をそそられた。“大谷サイダープロジェクト”、いいかもしれない。

経営者のための勉強会

経営者をはじめ幹部職員、また、一般社員のための勉強会(学び部門)は非常に多くの会や委員会で行われている。いくつかを紹介する。
じっくりと語り合い、気軽に本音を話し合い、意見の交換ができる勉強会「拓の会」。2016年度で25年目を迎える。十勝開拓の先人達にならい、“これからの企業作りの新たな段階を開拓するフロンティアとなろう”と始まったものであり、拓の会の「拓」は開拓の拓である。2016年度は9グループに分かれて学んでおり、グループ名(テーマ)がおもしろい。『仕事の面白さに気づく』グループ、『問題持ち寄り』グループ、『侃々諤々』グループなどなど。学生目線でみると『仕事の面白さに気づく』や『社員交流』の内容が気になる。
2つ目は『明日、社長になる!』ということを目的とした事業継承を課題としている企業のためのその企業の後継者が学ぶ勉強会「あすなる会」。目的はなにやら難しい勉強会という印象を受けるが、拓の会のグループ名同様ネーミングに遊び心があり、同友会全体のイメージが楽しげに感じられる。仕事の大変さや厳しさを想像すると、こうしたネーミングの遊び心のようなものも必要だとわかった。なお、社長になったら同会は卒業である。
3つ目はいろはの会。スタートアップ委員会の中にある新入会員向けの同友会活動を知るための会。同友会では年間でおおよそ650回程度の勉強会を開いているので、新入会員にしてみれば、どこから入ればいいのかわからない。そこで学生の入学時オリエンテーションのような役割を担っているのがいろはの会である。そこで自分の興味のあること、勉強したいことを見つけ、活動に入っていく。もう一点大事なことは、組織の運営にも関わるということ。自分たちの組織なのだから、自分たちで運営するという責任も果たさなければならないと言われた。どんなことにも責任はついてまわるということを肝に銘じたい。
最後に十勝農商工連携部会。6次産業化、フードバレーと同じ視点で取り組んでおり、商品デザイン、農村観光、海外ビジネス開拓、小規模加工食品、ワイン・ぶどう、十勝うどんの6研究会が設置されている。地域資源を生かし、常に時代のニーズに応えるべく取り組んでいることがわかった。同友会活動は多岐に渡り、また、広く門戸は開かれている。積極的に参加すれば、チャンスは広がる。就職活動にも通じることだ。行動を起こしてチャンスをつくるのも、黙って見逃すのも本人次第だ。

これからどうしたいか

勉強会は基本的に会社の営業が終わった夜の時間帯に行っているそうだ。そのため、夜の時間帯でも営業している飲食店などの経営者が勉強会に参加できないことが多い。岩本事務局長は「そのような経営者の方にも参加してもらえるように提案をしていきたい。もっといろいろな人に寄り添っていきたい」と話してくださった。また、UIJターンで十勝に戻ってくる人をどう増やすかというのも今後の課題としている。進学を機に管外へ行く人や、住民票を移していない学生などもいる。ここ十勝で働くことになったら管外にいた人は戻ってきて、住民票を移していない人たちは十勝に住民票を移すだろう。「そういうのをもっともっと増やしていきたい」と岩本事務局長は言われた。
UIJターンに関して「どのくらいの方がUIJターンで戻ってこられているのですか?」とお聞きすると、岩本事務局長は「正確なところはわからない」と言われた。少し意外だった。しかし、それに続けて十勝の18歳人口と進学者と就職者、進学者のうち管内進学と管外進学の割合、十勝の人口減少数などの数値を具体的に上げられ、おおよそのUIJターンの人数を推測された。なるほどそのような考え方、数字の出し方があるのかと、とても勉強になった。直接UIJターンの人数を把握することができなくても、「わからない」ではなく、別の数値を組み合わせることでおおよその数をつかむ、仕事をするときに必要な力だと思った。また、1つ勉強になった。

まとめ ~ 縁・めぐり合いを大切に ~

今回、岩本事務局長のお話を聞いて、就職してからもなお、人は勉強を求めていると感じた。実際、取材翌日も十勝経営者大学があり、大谷短大の阿部先生の講義があると伺った。私たちも教わった先生なので、同友会、経営者の皆さんに親近感が湧いてきた。経営者の皆さんの真剣な受講態度を想像し、わが身を振り返って少し反省した。
同友会はまさに経営者が求めていた場所、勉強ができるところだ。経営者同士が共に勉強し合うことで信頼し合って良いカタチが出来上がるという。
同友会の事務局の仕事は多岐にわたり、わかりにくい。岩本事務局長もお子さんに「おとうさん、なにをやっているの?」と聞かれ、「社長さんの勉強会のお手伝いをしているんだよ」と答えると、「ふ~ん」で終わると笑っていらした。会員企業、そして地域を縁の下で支える職員としては、時代環境の変化を先読みし、勉強し、企業に役立つと思えば、「必要なことはなんでもやる」と覚悟を決め、経営者が仕事をし続ける上での課題や悩みの解決を岩本事務局長は手助けしている。社会にもっと知ってもらうにはどうしたらいいか、これも大きな課題かなと思った。同友会の社会的認知が広がれば、組織率ももっとあがるのではないだろうか。
岩本事務局長のこの仕事への情熱はどこから来ているのかと思い、最後に岩本事務局長と同友会との出会いをお聞きした。学生時代は同友会について何も知らなかったと言われた。就職を控えて合同企業説明会であるブースが込んでいたので、暇つぶしに座ったのが同友会のブースだった。そうしたら担当者につかまり、延々2時間の説明を受け、合同企業説明会は終了。それが運のつき。マスコミや新聞社を希望していると話すと、「中小企業家しんぶんを書けるよ」と言われ、「ああそうですか」…、教育学部と言えば、経営者こそ最高の教育者だと言われ、あれよあれよという間に採用され、現在に至るとお聞きした。
仕事・就職には縁・めぐり合いも大切であり、また、仕事は与えられた環境で頑張って結果を出し、期待に応えることが大切だと教えていただいた。まずは、合同企業説明会に行くことにした。(井脇 史絵、岩田 悠里、佐々木 玲哉)