大谷短大生がゆく 「社長! 教えてください」

  • 第6回 株式会社 大地(2016年8月5日 取材)

農業王国・十勝の未来を創る

今回取材に訪れたのは幕別にある企業、株式会社 大地。農業用施設を中心とした建築会社である。元々建築会社に勤めていた林秀康社長が14年前、平成14年4月に創立した会社だ。コンセプトは「お客さまとともに考え、悩みにお応えすること」。自社工場で培った経験と実績を踏まえて最適な施工を提案する。

 

農業を夢見て

幕別の農家に生まれた林社長は小学校2年生までを幕別で過ごした。その後、両親の離農に伴い帯広へ移住。進学、就職を経て18歳の時に半年ほど札幌に住んでいたという。その時に感じたのが田舎の住みやすさ、そして幼い頃に見ていた農業への想いだった。いつか農業に関わる仕事がしたいと思い20年、14年前に設立したのがこの株式会社 大地だ。前職の建築の経験を活かし、農業に特化した建築会社を起こした。

現在では農業用施設の建築だけではなく、池田のまきばの家、ワイン城のレストラン経営、農業生産法人など、大地では3つの部門、林社長自身は3つの会社で5つの事業を行っている。その根底にあるのはやはり農業。そして、林社長自らが見据えるのは6次産業化である。

 

1×2×3を実現

6次産業化とは農業などの1次産業の事業者が2次産業・3次産業の事業者が得ていた付加価値を農業者自身が得ることによって農業を活性化させようという取り組みである。具体的には消費者への直接販売や食品加工、レストランの経営などが挙げられる。農協等に出荷するだけではなく、自分たちの手で流通までを行いたいという農業従事者も増えてきているのだ。農作物を作れば食べてもらいたくなる、食べてもらえば感想が聞きたくなる。消費者の反応が見たくなるのだ。それが自身が農業を行うモチベーションとなる。ただし、社長はこうも言う。すべての農業者が個々の経営で6次産業化に取り組むべきだとは思わない。経営規模や人的資源、そして生産物の特性を踏まえてそのメリット・デメリットを勘案し、取り組むか否かを決めるべきだ。大規模経営では6次産業化を進めることで新たな雇用の創出も期待される一方、やるべきことが増え、肝心の作物管理がおろそかになり、良い農産物ができなくなるリスクがある。

地域としての6次産業化は、十勝の農産物を原料として管外に移出し、そこで加工・商品化して販売するのではなく、地域内の多様な事業者が仲間を作り、農商工連携で商品化・販売まで行うことである。多様な経営形態がうまくかみ合って地域に存在することが理想であり、農商工連携が基本だ。

元々社長の座を譲った後は農業に従事したいと思っていた林社長だが、農作物を生産した後の流通や提供については考えてはいなかった。このように考えるようになったきっかけは中小企業家同友会に入ったことだと言う。同友会に入ったことによって異業種の事業主とのつながりが出来た。自分のやってみたいことに対して賛同してくれる仲間も増えた。人とのつながりが広がったことにより自らの考えも広がったと言う。

 

居心地の良さが良い仕事を生む

林社長が大事にしているのは会社の経営理念ももちろんだが、社員が働きやすい環境を作ることだ。「人は皆、居心地の良い場所を探している」というのは林社長の言葉。仕事でやりがいを感じること、この仕事が好きだと感じること、それがこの会社で行えること。仕事を自分から積極的に工夫して行うことが出来る。それが居心地の良さへ直結している。

社員が自らの仕事に対して胸を張れること、家族や知人に誇れる仕事をすること。そう思える会社を作ることが経営者としての役目だ。会社を経営していくには様々なプレッシャーに耐えられるか、また、なんでもできるか、という覚悟がいる。社員の生活もかかっている。多くのことを経験した上で、「夢があるから持ちこたえられる」と林社長はそう語った。

 

必要とされる会社を目指して

株式会社 大地の顧客は一般農家が主だ。建築営業担当の社員1人と林社長の2人で営業を行っている。大地の仕事では営業はもちろんだが、施工したお客様による口コミも重要な役割を担っている。良い仕事をすれば、その仕事を見た他のお客様によって仕事が入ってくることがあるのだ。このように仕事を続けてきた大地の仕事はお客様からの信用で成り立っている。この会社の施工は良いと、周りの人に印象付けられ、仕事がどんどんつながっていき農業施設建築会社として、農家の方々に必要とされる会社となった。創業して最初の頃はゼネコンの下請けも行っていたそうだが、現在ではほぼ単独受注で仕事を、時には特命での仕事もしているそうだ。

会社が必要とされれば残る。なくなっていくのはその会社が世の中から必要とされなかったから。どんなに一時的に業績が上がっても、必要とされなければその会社はそこまでだ。

利益だけを考えるのではなく、顧客と共に良い仕事を作りあげること。それが必要とされる会社なのだろう。

 

人づくり・町づくり→財産

林社長がモンゴルを旅行したことがきっかけで始まったのがJICAのモンゴルへの技術移転プロジェクトだ。モンゴルには農協等のシステムがなく、生産された農作物を仲買人が買い付けて売る状態が続いている。つまり、農作物が採れない時期には仲買人が買いためた作物が高い値段で売られている。もちろん、農作物を作った農家には仲買人が買った時の金額しか入らない。このプロジェクトの目的は農作物の流通ルートを整備すること。そのため大地の低コストの貯蔵庫の技術はもちろん、日本の農協のシステムを伝え広めること、いかに安く土を改良するか等の肥料など農業に関する技術を伝えている。

「モンゴルで儲けることは考えていない。いかにモンゴルの人の生活水準が良くなるかを考えている」と林社長は言う。現在建てられている貯蔵庫は国の所有物となっているが、将来的には村の所有にするなどして流通の仕組みを整備出来ればと考えられている。農業を通じて、その地域に暮らす人々の生活が豊かになること。人づくり、町づくりを行うことがこのプロジェクトの目的だ。(菅野 杏奈)